真宗大谷派 西福寺

大分市 真宗大谷派 西福寺

榎本栄一

      大悲の風

     大悲の風
     わかりにくいが
     私のあさましさに合掌したら
     どこからともなく
     ふいてくる

  
      浄土のとなり

     この古い畳の上で
     しずかに いのちのながれに
     心耳(みみ)をすまし
     ここが私の
     一ばんだいじな棲処(ところ)としり
 

      光は

     しぶとい
     この頭がさがったら
     浄土の光は
     こんなところに
 

      いのちの海

     生きとしいけるもの
     ときにいさかいながらも
     無辺の いのちの海
     生かされており
     この私も

 
 
      無辺光

     灯台もとくらしと
     申せども
     南無阿弥陀仏の御ひかり
     わが身の闇の
     隅ずみまで
 

      つの

     私のあたまに
     つのがあった
     つきあたって
     折れて
     わかった

 

      境界線

     この世 あの世と申すは
     人間の我見
     ごらんなさい
     この無辺の光の波を
     境界線はどこにもない

 

      もちじかん

     私の持ち時間が
     残り少ないのに気づき
     このすくない時間が
     まだ 私の両手にゆれ
     かすかに光り

 

 

      現世功徳

     南無阿弥陀如来は
     私の底なしの
     驕慢心を
     毎日 照らしてくださる

 

 

      経文無尽

     書かれざる お経が
     私の日日をとり巻いており
     南無と合掌していれば
     少しずつ読めます
     順逆の風がふいています

 

      一人一道
 
     人間はみな
     たれも通ったことのない
     自分が はじめて通る道を
     一生かかってあるく

 

      空くらく

     しんぱいいらぬ
     この雨は
     なむあみだぶつ申していたら
     通り雨やと
     わかりました

 

      独りよがり

     小学生が自転車で
     得意そうにジグザグ
     私もこのようなことを
     ふとしているのではないか
     仏 照覧の世の中で

 

      波

     日日のいろんな出来事は
     この永劫の海の 寄せる波
     どの波も
     何かしみじみ尊くて

 

      盲亀

     浮木にすがりながら
     ここどこだろうとかんがえる
     ここ大きなおんはからいの
     海らしい

 

      難聴

     この耳はながねん
     人の云うことを
     おろそかに聞いた耳です

 

      諸国巡礼

     この二本の足が
     まだうごいて
     テクテクあるいて
     たどりついたここが
     モッタイナイという国の入口

 

      手

     この手で
     日日を
     かきわけているようなれど
     気がつけば
     仏の 手のまにまに

 

      くだりざか

     くだり坂には
     またくだり坂の
     風光がある

 

      まま

     どうにもならぬままが
     私のこんにちあるく
     道でございました

 

      死後

     重い墓石の下へはゆかぬ
     縁ある人びとの
     こころの中が
     私のすみか

 

      小判
   
     猫に小判というが
     あわれ人間は
     その小判に目がくらむ

 

 

      冬葱柔軟

     冬の葱は
     きびしい寒気の中で
     かたくならずに
     柔らかくなる

 

      苦

     私にふりかかる苦が
     苦でありながら
     ひかりながら

 

 

      不断光

     なむ わがくろい雲の
     あいまより
     われはしらぬに
     おのずともれるひかりあり

 

      巡礼果てなし

     ながい娑婆巡礼でしたが
     もうしばらくで
     無碍自在
     やど賃不要
     のり物賃不要

 

      ゆっくり

     ゆっくりあるくようになり
     道ばたの石ころも
     光っているのをしり

 

      地べたに

     私のおごり心が
     いし瓦の如く
     地べたにくだけころがり
     日がのぼり
     日がしずみ

 
      好日

     ひとのこぬ一にちは
     耳の遠いのもわすれおり
     眼をつむれば
     寂かに桜(はな)も咲いており

 
      うねりのなか

     この生死海の波のうねりに
     手を合わせながら
     うねりの中から
     向こうの岸がみえてくる

 

 

      尺取虫
 
     尺取虫は
     すらすらと進めない
     屈んでは伸び

 
      ダルマさん

     もしも私が
     小賢しい
     手足引っ込めたら
     ダルマさんみたいに
     たのしくコロリコロリ

 

      道

     師にも 友にも
     妻子にも
     ひそかに手をあわせながら
     この辺りからは
     おのずと一人になる

 

      諸縁礼拝

     此土にうまれ
     愚痴のふるまいの
     八十ねんの
     諸の縁を
     今はしずかに拝みながら

 

      私の眼

     私のすこしかすんだ眼に
     この雑草の叢(むらがり)の
     なんと青青
     生生とうつることか

 

      業の落葉

     私のなかに業がふりつもり
     業の落葉がふりつもり
     腐植土のようになり
     ながいとし月には
     私の肥料(こやし)になり

 

      晩年をゆく

     雨ふれば傘をさす
     お日さまあつければ
     帽子をかぶる
     足もとくらければ
     あるかない

 

      心光風光

     ほんに 六十には 六十の眼
     八十には 八十の眼

 

       煩悩

      いのち終わるまで一緒に暮らし
      いずれ別れる煩悩なれば今は大事に見守ります
 

  

     「ぞうきんの詩」

     ぞうきんは、他のよごれを、いっしょうけんめい拭いて、
     自分は、よごれにまみれている

 

     人のいうことを 
     ナルホドそうかと うなづけたら
     何かそこには 
     小さな花が 咲くようである
 

     またひとつ
     しくじった
     しくじるたびに
     目があいて
     世の中 すこし広くなる

 

     なにごともじわじわがよろし
     季節の移ろいゆくがごとく

 

     私は銭湯が好きである 
     銭湯に入っていると
     自分が世の中の
     その他大勢の 
     一人であることがよくわかる

 

     遠くなった耳が
     世音のなかに 
     仏様の声を
     ふと聞かせていただく

 

     仏法にふれるとは
     身辺の何でもないことを
     ただ心をこめて 
     すること

 

     自分がどれだけ世の役立っているかより
     自分が無限に世に支えられてることが
     朝の微風の中でわかってくる

 

     虚空の
     願船にゆられながら
     朝になり夜になり
     冬が去り
     春に遇う

 

     再び通らぬ 
     一度きりの尊い道を 
     いま歩いている

 

     この道
     平坦ではありません
     ふみはずしましたが
     気がつけば 
     ここも仏の道でございました

 

     自分を観て
     自分を書くのが
     山河あるくよりたのしい

 

     としをとることも喜びだ
     今までわからなかったことが
     少しずつわかってくるから

 

     私はこんにちまで 
     海の大地の無数の生き物を食べてきた
     私の罪深さは底知れず

 

     うぬぼれが
     木の上からポタンと落ちた
     落ちたうぬぼれは
     いつの間にか
     また木の上に登っている

 

      にちにち出会う
      なんでもない
      あたりまえの人を
     ひそかに
     拝めるような
     私になりたい

 

     年とるにつれ
     弱るにつれ
     尽きぬいのちが
     私の底から涌いているのを
     いつしか拝むようになり

 

     一寸先は闇という
     よくみれば 
     その闇は私の中にある
     ときには 
     月ものぼるが

 

     波瀾万丈の
     世の中を
     ふりかえれば
     なにごともないように
     ほのぼのと光

  

     身をすててこそと承るが
     そのすてるちからが
     私にはないので
     ようすてぬままに
     大悲の中を
     ほくほくとあるいている 

 

     ひとりの
     殻を出て
     縁あるままに
     人に遇う
     仏に遇う

 

     私にながれる命が
     地を這う虫にもながれ
     風にそよぐ
     草にも流れ

 

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